この小さな絵は、フィレンツェの人々にとっては特別な意味のある旧約聖書外典の一場面を描いたものです。それは敬虔な寡婦ユディトがアッシリアの将軍ホロフェリネスから村を守った物語。イタリアの独立を脅かす独裁者への勝利の物語としてルネッサンス時代のイタリアで語り継がれていたものです。
この絵の描かれた板の使用目的はわかっていません。小さな戸棚の扉か、誰かの肖像画のカバーか何かだったのかもしれません。戸棚を開けるたびにユディトの勝利の物語を思い出そうという意図だったのか、フィレンツェの女性のお手本として誰かの肖像画に添えられた物だったのか・・・。
この絵はフィレンツェのウフィーツィ美術館にある似た大きさの作品の改作です。シンシナティ美術館のこちらの絵は、その全体的な印象からボッティチェッリの作品であることが度々疑問視されてきました。しかし最近の研究で、この絵がボッティチェッリのものとそっくりな下絵の上に描かれていることがわかってきました。また損傷されていない部分はボッティチェッリの1460年代後半から1470年代初頭の作品と似ているようにも思われます。誰の作品であったにしても、この作品はイタリア・ルネッサンスの宗教画が世俗の用途に使われた珍しい例であることに変わりありません。
今日の作品はシンシナティ美術館の所蔵です。
P.S. サンドロ・ボッティチェッリについて押さえておきたいポイントはこちら。それからユディトとホロフェルネスを描いた名作はこちらをご覧ください!