今日の作品に描かれているのは、スイス南西部のブレガリア渓谷にあるソリオ村(右側に見える教会の塔でそれとわかります)付近のアルプスのパノラマ風景。広大な高原と渓谷の向こうに、雪をかぶった雄大なシオラ山群とボンダスカ氷河が一望できます。画面中央には、グリソン(グラウビュンデン)州特有の青と赤の農民着を着たたくましい農家の娘が、2頭の大きな荷馬を引いて水桶の前を通り過ぎる姿が描かれています。娘の背後の画面中段左手には耕したばかりの畑で種をまく人がいて、右手には黒と白の番犬が用心深く立っています。
明るくきらめく陽光と雄大な眺めが、この絵を見る人の目を楽しませます。鮮やかなウルトラマリンの空と頭上に広がる帯状の薄雲を背景にした春の情景が、鮮明な色彩で描かれています。この絵は、長く厳しい冬を乗り越えた先に訪れた春に再生する自然に向けた命の賛歌であり、風景や農村で働く人々、動物たちが自然のサイクルを想起させる汎神論的な作品です。『アルプスの春』は、アルプスの牧歌的な大きな風景画で知られるイタリアの画家、ジョヴァンニ・セガンティーニの代表作。1800年代のイタリアで最も有名な作品の一つで、何度も展示され、関連の出版物も多数あります。