セバスティアヌスは、キリスト教徒を支援した罪でディオクレティアヌス帝の命により、矢を射られて処刑されたローマの兵士です。一命をとりとめた彼は、一人の敬虔な女性に介抱されて健康を回復しますが、後に撲殺されてしまいます。矢の傷から奇跡的に回復したことで、セバスティアヌスは、疫病が蔓延する時代に人々の守護者として信仰の対象となったのです。
この作品は、19世紀にはダリッジで最も有名な絵の一つでしたが、20世紀末にその真筆性が疑われるようになりました。今では、1617年から18年にかけて制作されたオリジナルの自筆のレプリカと認められています。オリジナルは、マドリッドのプラド美術館が所蔵、2点あるレプリカの内、1点はこの作品、もう1点はルーブル美術館にあります。2点とも、聖セバスティアヌスの左手、腰布のあたりの肌の露出、風景に加えられた形状などの点に、プラドのオリジナルとの違いが見られます。
聖セバスティアヌスの殉教の物語は、男性裸体像の理想となり、レーニの作品の驚くべきエロティシズムは、何世紀にもわたって人々を魅了してきました。ダリッジのバージョンでは、ペンティメント(描き直し)の跡から、腰布を小さくしたことがわかっています。一方、プラドのバージョンは、18世紀のどこかの時点で非難を浴び、腿と下腹部の大部分が隠されました。三島由紀夫の小説『仮面の告白』の中の、性に対する自己発見の物語は、プラド・バージョンにインスピレーションを受けたものです。その1世紀前、作家チャールズ・キングズリーは、小説の登場人物アルトン・ロックがダリッジ・バージョンの前で感動の涙を流す場面を書いています。
ダリッジ・ピクチャー・ギャラリーのオンライン・コレクションでは、この作品を高解像度で見ることができます。
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