部屋の中で、若い女性が漆塗りの針箱の前で柄染めの長い布を持って座っています。幾重も色を重ねて薄絹の透け感が表現されています。何枚もの衣で体を包むのが着物です。帯というのは密に織られた錦のことです。この女性の黄色味がかった衣には蔓草の模様が描かれています。
布で遊ぶ日本猫は『源氏物語』に出てくる女三ノ宮をイメージさせるモチーフとして日本ではよく知られています。女三ノ宮が柏木という男に見染められた場面。二匹の猫が遊んでいて彼女が隠れていた御簾を破ってしまい美しい彼女の姿があらわとなってしまったのでした。この歌麿の作品では、女性の衣装を取り除ける必要はなかったようです。彼は自身が得意とした版画技術を駆使して表現した薄絹を纏わせることで、このお針子の美しさが十分表現できると確信していました。
P.S. 藤田嗣治のことをもしあまり知らないのでしたらこちらをお勧めします。彼も猫の大家でした!