クラリス・マジョリバンクス・ベケットは、オーストラリアのトーナリズムの主要な画家。署名も日付もほとんど入れず、めったに作品を売ることがなかったベケットは、多くの女流画家の例に漏れず、同業の男性からの蔑むような批判にさらされました。
教養にあふれ、快適な生活を送る家庭に育ったベケットでしたが、未婚の娘という立場では、年老いた両親の世話という義務を果たさなければならず、絵を描くことに専念する訳にはいきませんでした。アトリエは持たず、早朝や夕方遅くに、家から近いビューマリスの海岸や断崖まで、イーゼルと絵筆、カンヴァスを積んだ小さな手押し車を押していったのです。写実主義への情熱から戸外で描くことが仇となり、1935年、近所でカンヴァスに向かっている最中に土砂降りに会い、それがもとで患った肺炎が彼女の命を奪うことになりました。
ベケットの心の琴線に触れた主題の一つは、霧のかかった郊外の街路の情景。それは、電灯の柱の垂直線で強調されたり、刺すような黄色いヘッドライトや、入り江に反射する夕暮れのくすんだ輝きに満ちていました。
『サンドリンガム・ビーチ』は画家の晩年の作品。海の家、海水浴客、馬と乗り手、影、海、樹々。陽光にきらめき、溶けていくようなそれらの姿の構造を描写するために、濃い色遣いを用いています。本作では、初期の印象派的リアリズムから離れ、一つ一つのモチーフの形状を単純化することで、モダニズム的な要素を取り入れようとしているようです。
私は、ベケットの作品が大好きです!
P.S. ビーチでのバケーションほどいいものはありません。その証となる10点の絵画をこちらからご覧ください。