『聖アンナ、洗礼者聖ヨハネと聖母子』(『バーリントンハウスの下絵』という名でも知られる)は、レオナルド・ダ・ヴィンチの大判のドローイング。その大きさから、絵画作品の下絵として制作されたと考えられていますが、これを直接の下絵としたレオナルドの作品は現存していません。フランスのルイ12世からの注文を受けて描いたものの失われたか、あるいは制作に至らなかった作品の下絵と思われるこの絵は、現存するレオナルドの大判のドローイングとしては唯一のものです。
これは、15世紀のフィレンツェ絵画で人気のあった2つの主題、聖母子と洗礼者ヨハネ、聖母子と聖アンナを融合した作品。構図は極めて複雑です。膝を異なる方向に向ける二人の女性。聖母マリアは膝を左へ向けている一方で、上半身をぐっと右にひねることで、うねるような螺旋状の動きを生み出しています。二人の下半身は別々の方向を向いていますが、顔はお互いを向き、一方が他方の鏡像のように近接しているため、上半身は一つの形を共有しているかのようにほとんど一体化しています。このねじれが生み出す力は幼子イエスに引き継がれ、マリアに抱かれてほぼ水平に保たれたその体は、自身の軸を中心に下半身は上向きに、上半身は下向きに弧を描いているのです。
慎重に配置された二組の頭部。イエスの目線と顔に当たる光はマリアのそれと呼応し、洗礼者ヨハネと聖アンナの頭部の関係も同様です。交錯する視線の中で展開する静かなドラマ。アンナは崇敬の念を込めてマリアに微笑みかけていますが、 おそらくこれは誰もが「祝福された方」と呼ぶその人を称えているのでしょう。 イエスを見つめるマリア。手を挙げて、年上のいとこのヨハネを祝福するイエス。ヨハネは年長にも関わらず、その祝福を謙虚に受け入れています。これは、彼が後に「私には、その方の靴ひもをほどく価値すらない」と語ったことを予感させるもの。イエスとヨハネの顔のそばでアンナが人差し指で天を指し示す姿は、その祝福の真の源を示唆しているようです。この曖昧なジェスチャーはレオナルドに特有のもので、『最後の晩餐』や『洗礼者ヨハネ』にも見られます。
P.S. レオナルド・ダ・ヴィンチの未完の作品を見てみましょう!このイタリアの巨匠については、以下のコラムもご一読ください。