これは、「ファイユームの肖像」として知られる数多くの肖像画の内の1点。出土したエジプト北部の地方の名を取って、こう呼ばれています。エジプトがローマ帝国の属州だった時代に上流階級のミイラと共に埋葬された、木の板に描かれた自然主義的な肖像画です。現存する実物から、遺体をくるむのに使われた帯状の布に差し込まれていたことがわかっていますが、今ではほとんどのものはミイラから分離されてしまっています。美術史的な観点からすると、エジプト美術ではなく、古代ギリシア・ローマの美術様式に由来したものです。
この肖像画を作るために、制作者は薄い板にろうを混ぜた顔料で彩画した後に、加熱して焼き付ける技法を用いていますが、それは絵に立体的な印象を与えるだけでなく、エジプトの乾燥した気候の影響で絵が色褪せたり、劣化したりするのを防ぐ効果もありました。それぞれの個性が生き生きと表現された肖像画には、衣服や宝石、この男性が身に着けているツタ状の金のリースのような装飾品によって、描かれた人物の富と地位が表わされています。
P.S. 実物そっくりの”死”の肖像画をもっとご覧になりますか?ファイユームの肖像画についてもっと知りたい方はこちらをどうぞ。(きっと気に入っていただけると思います)
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