アングロ・サクソン族は、金属加工技術、特に完璧な金銀とガーネットの装飾品で有名でした。この作品は「フラーブローチ」-これは、寄贈者の名前にちなんでいます―として知られていますが、様々な観点からこの分野の代表作品だとされています。この作品は、この見た目以上のことを私たちに教えてくれます。この作品では、他のアングロ・サクソン族のブローチと異なり、人物の詳細な横顔が描かれています。これは五感を擬人化したものであり、中心とその周辺に配置されていますが、このような主題はアングロ・サクソンの文化における他の品には見られないものです。中心に配置されているのは視覚を擬人化したもので、鑑賞者をにらみつけるかのように描かれています。残りの4つの感覚は、この中心部を取り囲む4つの部分に描かれており、味覚(左上)は手を口元に当てた姿になっています。嗅覚(右上)は大きな鼻とともに描かれています。聴覚(左下)は、手を耳と顔のそばに注意深く持ち上げており、触覚(右下)は、手を体のわきに寄せています。さらに外側には、人の姿もありますが、主には自然が描かれています。
アングロ・サクソン族のブローチは、文字通り、他人に見せるために作られ、所有者の高い地位を示すために何度も身に着けられましたが、現代では、私たちに彼らの創造力の源となった文化を教えてくれます。イギリスのキリスト教化は6世紀から始まりましたが、このブローチの絵は、例えば、キリスト教徒は異なる信仰の存在を示しているともいえます。更に、このようなブローチは、失われた当時の文化・社会だけでなく、歴史の中に埋もれてしまう所有者の個人的な好みや嗜好なども垣間見せてくれるとても個人的なものでもあります。
ステファン・スケンヨン
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