２つの楕円

今日紹介するのは、カンディンスキーが1910年代後半に制作した、楕円を含んだ構図の一つ。具象的な客観的実在を連想させるイメージも見て取れますが、これは他の連作と同様に完全な抽象画です。黒い楕円で縁取られ、俯瞰視点で描かれた教会の小さな円屋根と野原が、様々な感情を呼び起こす日常の暮しの光景と、まるで音楽のように表現された画家の心の状態とを結びつけています。

ワシリー・カンディンスキーは、ロシアの画家、美術理論家。抽象画の先駆者として知られていますが、興味深い芸術的思考の持ち主でもありました。例えば、感覚と意識両方に作用するように（共感覚）、画家と鑑賞者の心の交流を促す試みをしています。絵を描きながら音色や和音を聴き、（例えば）黄色はトランペットの中間ハ音の色、黒は閉鎖や物事の終わりを意味する色、あるいは色の組合せはピアノで弾くコードと同様に振動周波数を生み出す、といった具合に独自の理論を体系化しました。また、円は最も平穏な形状で人間の魂を表すといったように、幾何学的な図形とその関係に関する理論を発展させていきました。

今日の作品は、国立ロシア美術館の協力で紹介しました。

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